2012年2月5日日曜日

「自分だったらライブハウスはこうする!」へのリプライ

LAST WALTZにも何度か出演頂いているバンドtetra+の國本怜君がBlogに「自分だったらライブハウスはこうする」という記事を書いていて、大変興味深く読んだ。(記事にあるように、彼自身「いつかライブスペースを作るのが一つの目標」だそうだ。)そこで、私もライブスペースを運営する当事者として國本君の設定したテーマと提言に沿って考えてみようと思う。「自分はいまこうやってライブハウスをやっている」みたいな、、、。


・ほぼオールスタンディング(イスが隅っこに4,5個しかない)なのに休憩するスペースがない。→予想できるキャパシティ(来場者数)に見合う休憩するスペースを確保する、ないしは来場者がスタンディングかシッティングを選択できる様にする。
LAST WALTZ(以下LW)では動員予想5〜20人、20〜40人、40〜60人、それ以上、と4通りに分けてテーブル&椅子の数、配置を代えている。また、どの配置の際も小さなテーブルを活用し、出来るだけフード&ドリンクを置けるように心がけている。
スタンディングのライブ時は、LWには元々客席後方に、ステージが死角になるスペースがあるので(本棚前)、そちらを休憩場所に使用可能。ただ、これまでオールスタンディングのイベントは数少ない。避けているつもりはないが、ブッキングの方向性がやや年齢層高めなのだと思う。何せ私が40歳のオジサンなので、オールスタンディングが似合うブッキングがあまりない。(いくら井山大今2Daysが超満員でも、音楽性からしてスタンディングには出来ず。)


・転換中にアーティストとオペレーターがPA使ってあーだこーだやり取りしてる。みっともない。→オンとオフ(上演中と準備)にメリハリをつける。


LWにはステージに幕をつけてある。ただ、現状では音楽ライブの転換時に活用しておらず、隔週金曜に行っているバーレスクショーの転換時にのみ使用。(國本君の記事を見て、今後、音楽ライブの際にも活用してみようかな?と思った。)


LWのリハーサルは入り時間を出演者の意向に合わせており、必要なら午前中からの搬入も可としている。また、現場での入念なリハーサルが重要となる公演の場合は前日をリハーサル日として無料で会場を提供し、PAも交えて入念なリハを行っている。(もちろんコストも発生するので、それに伴った集客見込みなどバランスは考慮。)
音楽ライブにはリハーサルをほとんど必要としないジャズや即興演奏の方もいれば、PAとの細かな連携が必要なケースもある。会場側もそれに合わせた対応が必要。


ただ、そんなシステムを活かすも殺すも結局は「人」だ。これまで上手く機能せず、出演者の方々やお客様に迷惑をかけてしまった事が何度かあった。結果、私の判断で半年間に店長は2度代わり、PAスタッフも変更するなど、それなりに大きな決断を下さざるをえない場面もあった。


・転換中に一つしかないドリンクカウンターに長蛇の列が並んでいる。→ドリンクカウンターのスペースを広めに確保する。ドリンクスタッフを増やす。


幸か不幸か、LWではカウンターに長蛇の列が出来る事は稀(笑)。これも年齢層高めな客層と、音楽性によるのだろうが、フード&ドリンクは公演時間中にも注文される方が多く、転換や休憩時間中に集中する事は多くはない。
ただ、注文への対応など現場でのオペレーションには課題もあり、現在合理的なオペレートを目指して試行錯誤中。


・(ライブハウスでは当たり前の事だとは思いますが)分煙されてない。タバコの煙で視界が不鮮明になる位。→分煙する。(ホールは禁煙)


私が煙草の煙大嫌いな為(ほんと、煙草を口にくわえた事もないくらいダメ)LWは基本全面禁煙。当初「そんな大胆な事したら、店つぶれるよ」と言われたりもしたが、嫌いなんだから仕方ない(笑)。


ただ、喫煙される出演者やお客様にいちいち外に出て、隣のコンビニ前を使ってもらっており、最近これだけ寒くなるとさすがに申し訳ないとも。上記本棚前などに分煙器を導入しようかな?とも考えている。ただ、今は金欠なのと、分煙効果を確認する必要ありで、少し先の事になりそう。


・(個人的な不満ですが)音響と照明(特に音響)がしっかりしていない。音にこだわりを微塵も感じない。→音にライブハウスのオリジナリティを出す。


LWの音響は11月末に大幅な機材変更をし、照明も大切な要素の為、かなりの設備投資を行った。ここ2ヶ月の会場の音を聴く限りでは、現場のPAスタッフもそれらをよく使いこなしていい音を出してくれていると思っている。


また、LWはステージ上の最小限の吸音しかしておらず、かなり「ライブ」な方向性をもった環境と思う。実は吸音材も相当数&種類用意してあるのだが、私は「デッド」なライブ環境は嫌いなので、もう少し現状のままでPAスタッフと相談しながら、更なる音作りを模索したいと考えている。


LWに出演されるジャズアーティストには進んで「PAなしの生音で」と望まれる方もいる。例えば昨年8月の『EQ(小池修&青柳誠&納浩一&大坂昌彦)公演』など、会場、ステージ共にノンPA。私も会場で聴いたが、非常にクリアかつ音楽的な響きで、現状の考え方の根拠にもなっている。


ただ、今後は用意してある吸音材を活用し、ジャンルやそれぞれの方向性によって微調整するような工夫もやってみようと思っている。音楽は一時の価値観で満足し、停留すると腐って来る。常に何か手を加え、少しずつ変化している事が必要と考えているし、それを我々が楽しまなくては。


また、ライブハウスの問題の一つに「出演者のチケットノルマ制度」というものがあります。

「ノルマ制度」、以前私もTwitterに書いた事があった。
この「ノルマ制度」、私にとっては意味不明で、もちろんLWにそんな制度はない。私も学生時代よりバンドをやっていて、ライブ終了後、リーダーから「ひとり¥◯◯◯ちょうだい」と言われるままに払っていたが、何の為のカネかいちいち確認しなかった。(そういうの面倒くさくて興味無し。あと、学生時代は友人が結構チケット買ってくれたのでたいした負担でもなかった。)

なので、LWを始めた時には「ノルマ制度」の事は頭に無かった。で、Twitterの話題でみかけて調べたのだが、 ものをクリエイトするのに有効な制度とは到底思えず。
あと、ふらっと立ち寄ったライブハウスで「本日はどちらの出演者が目的ですか?」とか聞かれるのが不思議だったが、今思えばあれは当日券のノルマに影響してるのか?「そんなの知らねえよ。全部見に来たんだよ。」とか態度悪い客でごめんなさいね。でもああいうの、ハコに客が付くのを自ら放棄しているようで、もったいないな〜と思う。ふらっと立ち寄ってもらえたりするのが一番嬉しいんじゃないのか?


機材使用料、、、LWは機材屋ではないので、必要なし。LWの機材はすべて私の私物だし、楽器機材は使ってもらってなんぼ。大切に、いい音を出してくれたら最高だ。


現在のLWのブッキングには以下の基準を設定している。
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チャージ売上げ10万円未満→50%を出演者へバック
チャージ売上げ10万円以上18万円未満(例3000円券×34枚)→60%バック 
チャージ売上げ18万円以上(例3000円券×60枚)→70%バック

*バックはすべて1枚目から
(出演には私か店長である谷口“マルタ”正明による判断や審査あり)
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上記を基準に、例えばこちらから出演要請した場合は、固定の出演料をお約束したり、私が企画した「SONGS of HEART」のように、まだ集客が安定しない若い出演者で、しかし私が実力と将来性を評価している場合は一組¥12,000を固定で支払うケースなども。

いずれにしてもこの辺の数字が私が考える「LWと出演者の心地よい関係」で、あとは出演者とLWが協力しあって出来るだけ多くの集客を目指してガンバルと。
もちろん社会は厳しく(笑)、頑張ってもすぐ結果は出ない。でもそれを「制度」で解決しようとするのは音楽人らしくない。ここまで長々と書いて来た、「いいライブを良い環境で提供する」為の創意工夫をしつつ、水を蒔き、芽が出るのを待つしか無い。でもそんな創意工夫の「楽しさ」こそがライブスペースを運営する醍醐味だ。


= 最後に=
8ヶ月間LWを運営してみて感じた事、学んだ事、沢山あるが、ライブスペース運営ならではの特徴は、「ライブスペースは、“お客様”と”出演者”という2種類の客を相手にし、それぞれの満足度を高める目的を持った場所である」という事。こんなの基本中の基本で、「何を今更!」と諸先輩達に怒られそうだが、私にはそんな事の実感が目が覚める思いだった。


そうした実感は、日々営業を続ける現場からしか得られないし、また、様々な出演者、お客様から助言、苦言を頂ける事も非常にありがたい。現場が自ら成長すべく心がけ、皆様にも育てて頂けている事、今、そんな循環が生まれつつあり、感謝に堪えない。


やや長くなったが、現在進行形でライブスペースを運営する者の立場から私なりのやり方、考え方を述べてみた。國本君や私の記事を読んで、異論反論多々あるのが当然と思う。今はBlogやSNSなど、手段は多々あるので、同業者の方々やステージからものを発信する立場の方々が積極的に意見を表明する事は業界の活性化にも繋がると思う。そんな期待もこめて。




2012.2.5 石原忍 伊豆高原にて